Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “よいお年を”

 

その折々の季節らしくはない、
例えば ダウンが仕舞えませんレベルの寒の戻りとか、
どんだけロスタイムなんだって思った残暑とか、
何だか今年はやたらと妙な天気に振り回されてたような気がする。

 「そういや、今年の一字は“暑”だったしね。」
 「あちゅい?」

一丁前に凝ったデザインのダッフルコートを、
さあ脱ぎましょねと構われていた小さな王子が。
お父さんの口にした言い回しを繰り返し、
やや不思議そうに小首を傾げて見せたので、

 「ああ、いや。
  ここんところは急に寒くなったねぇって
  お話をしてたんだよ?」

 「そうそう。おんもは寒かっただろ、くう。」

こちらはお家で待ってた側のおヒゲの壮年殿が、
ほかほかに蒸されたハンドタオルを、手際よく広げながらやや冷まし、
寒風にさらされたせいで真っ赤になってた頬に当ててやれば、

 「ふややぁvv」

何とも他愛なく、それは嬉しそうに目許をたわめるのが愛らしい。
マシュマロみたいに柔らかい坊やの笑顔を真ん中に、
すっかり和んでいらっさる、
そんなご家族3人の様子をカウンターの中からほのぼの見守り、

 「こんな切羽詰まってからの予防接種とは、
  のんびりし過ぎじゃね?」

近所の小児科まで、
インフルエンザの予防接種に出向いていた、
七郎さんと くうちゃん父子。
そんな彼らのお帰りを出迎えた、
マスターとそれからもう一人が この彼で。

 「よいちろ。」
 「オッス。」

揃えた指先を敬礼もどきに、
額近くでピッと振って見せるこちら様。
愛らしい坊やとお父様二人の血縁だそうで、
金色の髪や少々日本人離れした色白なところが、そういえばそっくりだが、
面差しが鋭角なのは、あんまり似ているとはいえなくて。
吊り上がった双眸や、肉薄な口許が、
挑発的な恐持てに見えなくもない風貌なお人だが、さにあらん、

 「お医者さんは怖くなかったか?」
 「うっ。」

寸の足らぬ手足を振り振り、小さな坊やが ぱたたと寄って来たのへ、
わざわざぐんと屈んでやって、視線を合わせたその上で。
ちゃんと向かい合っての会話を交わしてのち、
そっか偉いぞと満面の笑みしつつ、
ふわふかな金の綿毛をかき回すように撫でてやる。
実はこちらも“お父さん”であり、
しかも折り紙付きの子煩悩と来て。
愛する坊やにそっくりのこちらの坊ちゃんが、
逢えなかった間の坊やに見えてしょうがないのか、
そりゃあ 猫っ可愛がりしておいでなのだ。
そんな坊やに成り代わり、

 「去年ほどじゃなかったけれど、
  それでも今年も予約しないと受けられなくてさ。」

こちらさんも羽織っていたコートを脱ぎつつ、
近いと言っても車を出さねばならぬ距離にある、
ここいらの子供全部を
相手になさっておいでのお医者さんの名を挙げて、

 「少子化なんてホントかなと思うほど、
  随分待たされてのようやくだったんだよ?」

 「ふ〜ん。季節性のでもワクチンが足りてないのかね。」

昨年、大騒ぎになった新型インフルは、
ワクチンの製造が間に合わず、
体力のなかろう人からという、
年齢指定があっての順番制になってたほどだった。
そこを思い出してたこちらのお兄様にも、まだまだ幼いお子様がおり、

 「ヨウちゃんは? 阿含トコででも打ったのかな?」
 「いやいや、あいつんトコは歯科医だし。」

え? 医師資格がありゃあ別に構わないんじゃないの?
さあて どうだろか…と、会話が微妙に逸れかけたところへ、
小窓にガラスの嵌まったドアが開き、
カランコロロとカウベルが鳴って、来客を伝えてくれる。

 「いらっしゃいませ。」

さっそくお仕事へと意識を切り替えた七郎さんが、
シンプルな濃色エプロンをまといつつ、
通り道になってたサブのカウンターにて、
トレイにタンブラーを並べ、颯爽と向かった先では。
ダウンのコートに
微妙にレトロな毛糸のマフラーという重装備を解きつつ、
ケーキセットを注文している女学生風のお嬢さんが2人ほど。
女子高の沿線にあるという立地のこの茶房“もののふ”は、
学校が長期休暇に入る時期はそのまま閑古鳥の巣になる筈が、
店員たちがバラエティに富んだイケメンぞろいであるせいか、
平日でもさして客足は途切れぬまま。
とはいえ、さすがにここまで押し詰まってきては、
がらんとした時間帯が出来てもしょうがなく。
店内の暖房へほっとしたようなお顔をする彼女らを見て、

 「そうなんだよな、この2、3日、急に寒くなっただろうよ。」

こちらもそれがため、
コートなんて本格的な防寒具を早々まとってた小さなくうちゃんを、
そぉれと抱き上げると厨房のお隣りの、
休憩室を兼ねたプライベートルーム…別名“居間”まで運んでやって。

 「大みそかや元旦が、一番冷え込むという話らしいが。」
 「そうそう、それよそれ。」

話を継いでくれた、お背(せな)まで蓬髪伸ばした壮年マスターのお言葉へ、
意を得たりという反応、いやに大きく示した妖一郎さん。

 「最近流行のヒートテックたらいう温熱下着があるから平気だとか言って、
  あんまり着込まずに出掛ける癖がついてやがる。」

 「…もしかして、妖一くんのことかな?」

こちらの坊やよりはお兄さんだとはいえ、
まだまだ小学生という、妖一郎さんチの一粒種さんは、
年に見合わぬおませさんで。
八つも年上のお友達が活躍中の学生アメフトへ、
今の今から片足突っ込んで熱中しておいで。

 「片足どころか、ありゃあ首までずっぽりだ。」

自分が先々で活躍するんだという決意をしていて、
でも今は、基礎トレ止まりになってるなら可愛いもんだが。
長期休暇の合宿へも付き合って同行するわ、
大会が近づきゃあ、練習に付き合って遅くまで帰って来ないわ。

 「以前はあれでも、
  母ちゃんを一人にしちゃあ可哀想だとか思ってたらしいのが、
  俺が戻ったからって拍車かけての出歩くようになってよ。」

 「ほほお。」

事情があっての長いこと、
そんな坊やや奥方を残しての、失踪状態にあった妖一郎さんなので。
あんまり偉そうな啖呵は切れないから、
それでジリジリしているのかと思いきや、

 「せっかく久方ぶりに逢えての家族に戻ったってのに。
  団欒くらい堪能させてくれたっていいじゃないか。」

 「……妖一郎、それは我儘ってもんじゃあないのか?」

そういう見解が返って来そうだとの予測もあったらしい壮年マスターが、
やれやれと肩をすくめてしまい。

 「そうそう。しかもそういう憤懣を、何でまたウチでこぼすかねぇ。」

続いたお客様からのオーダーを取って来たらしい七郎さんが、
シェフでもあるオーナーに声を掛けに戻って来たついで、

 「大晦日は諦めてやんな。お正月はちゃんと家にいてくれるんだろ?」

昨年がそうだったの覚えていたか、
一体何を、今からごねてるお兄さんかを見越しての、
すっぱりとしたご指摘をくださるところが。
見栄えははんなり麗しくとも、

 “血は争えぬというところかの。”

似たような従兄弟同士だことと、
厨房へ向かいつつ、マスターが苦笑をこらえていらっしゃり。

 「おーみしょか?」

大人たちの会話へ、こっくりこと小首を傾げた小さな坊や。
その愛らしい所作に、まずはお父さんが相好を崩し、

 「そうだよ?
  妖一くんはね、除夜の鐘をつきに、今年はお出掛けするんだって。」

それを今からごねてる妖一郎お父さんだってことくらい、
見越せないでどうしますかと。
暗にそこまで言いたいらしいお言葉へ、
うううと口ごもったもう片やのお父さん。
せめて、寒さから風邪を引かぬよう、
そっちの対処を考えてあげた方が建設的ですのにね。
困ったもんだと言いたげに、
クリスマスリースの跡地にはやばや飾られた、
内装用の四角い絵凧の表から、
色白のお多福さんまでが、苦笑をこらえておいでな様子…。





   〜Fine〜  10.12.29.


  *いやまったく、年末年始が一番冷え込むそうですよ、今年は。
   福岡や三重で降っても こちらは降らぬ関西でも、
   この大晦日から元旦にかけては、雪になるやも知れないそうで。
   お出掛けの予定がある皆様は用心に用心を重ねてくださいね?

  *とて、昨年はどうしていたこちら様だったかなと振り返れば、
   妖一くんたら、葉柱のお兄さんに気を遣ったついで、
   お父さんと遊び倒したらしく。(誰が書いたお話だ・笑)
   昨年は大晦日からのお付き合いだったので、
   今年は違うらしいのがつまらんとぼやいておいでです。
   進歩のない大人です。

   しかしまあ、一番の問題は、
   脇役ばかりの話で今年を終わってもいいものか……。(こらー)

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